世界一短い童話集


   うれしい時は、ともに喜び
   さびしく悲しい時は、励まし合う
   ぎん世界に暮らす私たちは、離れていても兄弟姉妹(きょうだい)なんだ。
           ―― 月野一匠 「雪うさぎたちの絆」 



   昔、神様は天を龍に、地上を虎に治めさせた。
   虎は一日に千里を駆けては、地の果てまでも守った。
   やがて人間が地上を支配するようになった時、神様は人間を助けるため、虎の分身をそっと猫に変えて、仲良く住まわせたということだ。
           ――月野一匠 「猫はトラ」 




   背負った荷物がどんなに重くたって、耐えてみせるさ。
   忍耐力こそ、ぼくたち牛の天性なんだ。
   歩みはゆっくりでも、愚痴なんか言わないで一歩一歩進めば、必ず目的地に着くんだ。
   道中を楽しみながら、さあ、一、二、一、二。
             ――月野一匠「牛たちの歩み」



   新しい時代がやって来る。
   不器用でも真っすぐに生きるのが猪たちだ。
   未来に向かって前へ前へ。
   夢に向かって体当たり。
   どっすーん!
   がんばれ がんばれ うり坊たち。
                   ---月野一匠「猪突猛進」



   新しい年、新しい道、新しい夢。
   ぼくは冒険が大好き。
   未来はちょっぴり怖いけど、好奇心に任せて、まっすぐに進んでいくんだ。
                             ---月野一匠「子犬の初夢」



   ぼくたちは、生まれながらに人間の友だちだ。
   ペットだけじゃない。厳しい訓練を積んで、盲導犬・聴導犬・介助犬・
 警察犬・救助犬・探知犬などのプロになり、生涯を人間のために尽くす仲間も少なくない。
   なのに人間どうしは争ってばかりなのは、なぜだろう。
   ぼくたちは、誰とでも仲良く友だちでいたい。
                            ---月野一匠「犬たちの想い」



   ニワトリが先か、タマゴが先かって?
   アイウエオ順ならタマゴ、イロハ順ならニワトリだよ。
   え?進化の話? だったらニワトリは太陽から生まれた。
   赤いトサカは太陽の色。タマゴの黄身はまさしく太陽の子どもだ。
   朝日に向かって一番にオハヨーって鳴くのも、母なる太陽へのあいさつなんだ。
                            ――月野一匠「ニワトリと太陽」



   見ざる、聞かざる、言わざる。日本のサル。
   見るべし、聞くべし、言うべし。アメリカのサル。
   「あれれ、お山のてっぺんの日の丸が、星の旗に変わってる。」
   「大変だ。ボスを呼ぼう。」
   「ハイ、今日から私がボスになりましたネ。サルの世界も国際化しました。」
                     ――月野一匠「国際化」



   羊が大きい、と書いて、美しい。
   「美」という字には、羊への人間の感謝の気持ちが込められている。
   毛はウールに。肉はラムに、マトンに。羊羹(ようかん)だって、元はといえば、羊肉のスープから作られた。
   自分たちは草だけ食べて、すべてを人間のために捧げてくれるんだもの。
   人間も、他者のために美しく生きたい。
                         ――月野一匠「美しい生き方」 



   名将の陰に名馬あり。でも、ぼくは、戦場を駆けようとは思わない。
   子どもたちは、この世を信じて、未来を信じて生まれてくる。
   子どもたちの寝顔は、みな「お母さん、生んでくれてありがとう」って、感謝の思いに満ちている。
   ぼくは、そんな幼子たちを乗せて、夢の世界を駆け、仲良しになることの大切さや平和の尊さを、
   教えてあげたいんだ。
                        ――月野一匠「木馬の夢」 



   ふだん思わないけど、健康のありがたみって、病気になるとわかる。
   平和のありがたみも、戦争になるとわかるに違いないけど、それでは遅いんだ。
   争って得になることなんて、何ひとつない。
   国際化、情報化って言いながら、平和のたった二文字が守れないとしたら、悲しいね。
   国の繁栄や家族の絆も、平和あってこそだもの。 
                        ――月野一匠「平和への願い」




   ぼくたちヘビは、「できない」なんて考えない。
   手も足もなく、声も出せないぼくたちにできることは、ただ黙って地面を這い、前へ進むことだけ。
   でも、がんばれば何だってできることを、ぼくたちは知っている。がんばれば、木にも登れるし、
  水の上を泳ぐことだってできる。できなければ、「きっとできる」って信じて、できるまでがんばるのが、
  ぼくたちの生き方なんだ。
                        ――月野一匠「がんばれ ヘビたち」


   「地震とか津波とか、人間にはどうすることもできない自然の力ってあるんだね。」
   「そうさ。だから、昔の人は自然を畏怖し、守り神として龍を信じた。
   北斎や大観のような偉大な芸術家も、自然を畏敬したからこそ、魂を込めて、気迫ある龍を描いたんだ。」
   「ぼくらも、龍を信じて祈ろう。福島に、東北に、栄村に、一日も早い復興が訪れますように。」
                        ――月野一匠「龍神」



   昔、あるウサギが月にあこがれて、夜ごとジャンプをくりかえし、
  ついに月まで跳んだんだ。
   おとなしくって無口だけど、ウサギはいつも夢を追っている。
   雪がふれば、まっ白な野山をまっ先にかけまわるのも、ウサギたちだ。
                        ――月野一匠「ウサギたちの夢」



  「冬は寒くってきらい。早く春にならないかな。
  でも、春ってどこから来るんだろう。」
  「春はね、冬から生まれるの。冬が寒いほど、暖かい春が生まれるのよ。」
  「じゃ、冬は春のお母さん?」
  「そう、冬は春のお母さん。」
                      ――月野一匠「春はどこから」



  「世界一になるって、普通の人じゃ無理だよね。」
  「ううん。世界一にはね、世界に一人という意味だってあるんだよ。
  自分らしく生きれば、だれだって世界一なんだよ。」
  「そうか、ぼくでも世界一になれるんだね。ありがとう。やっぱり、
  おばあちゃんは世界一だね。」
                       ――月野一匠「世界一」



  「お母さん、うちも犬飼おうよ。」
  「ぼくも犬飼いたい。」
  「うちはおサル飼ってるから、犬はいらないの。」
  「え? サルなんて飼ってないじゃん。」
  「いるでしょ、いうこときかないおサルが2匹。」
  「・・・・・・・・・」
                     ――月野一匠「お母さんの勝ち」



  「世の中明るくしたいね。この頃なんだか暗いもの。」
  「政治家でもないのに何ができるっていうの?」
  「何もできなくても他人の幸せを願うことはできるよ。困ってる人がいたら
  手を貸すこともできる。力を合わせれば、もっと大きなことだってできると
  思うんだ。」
  「そうだ、やれることはいっぱいあるんだね。」
                         ――月野一匠「小さな自分でも」



    旅人が山道で熊に出あいました。旅人はあわてて荷物を放り出して
  逃げました。しばらくして、おそるおそる戻ってみると、おにぎりだけが
  食べられてなくなっていました。
    旅人は、胸をなでおろしました。
  「熊でよかった。盗賊(にんげん)だったら全部なくなっているところだった。」
                         ――月野一匠「熊に出あった旅人」



    ぼくたちは時間という列車に乗って未来へ走っているんだ。
  車窓を四季が過ぎていく。行き先は、君が乗ったときにもらった
  運命という名の切符に書いてある。見えなかったら自分で書き込めば、
  それが君の新しい行き先さ。

                               ――月野一匠「銀河鉄道の夜明け」



  「この猫、捨てられていたんですけど、飼ってもらえませんか?」
  子どもたちは、あちこち回って、一人暮らしのおばあさんの家に来ました。
  「おやおや、かわいそうに。いいとも、私が育てましょう。」
  「よかったあ。みゃーこ、優しいおばあちゃんにあえてよかったね。」
  「優しいのはあんたたちだよ。いつでも遊びにおいで。」
                               ――月野一匠「捨て猫みゃーこ」



  「重たそうなリュックですね。」
  「いやあ、詰まっているのは夢ですから。」
  夢をリュックに詰め込んで、今日はこの山、明日はあの山。
                         ――月野一匠「夢をリュックに詰め込んで」



   21世紀おめでとうございます。
   おいら誰にも負けないでっかい夢を持っているんだ。
   大好きな魚屋さんになって、もしおなかをすかせた猫がいたら言ってやるんだ。
   「さあ、今からおいらたちは友だちだ、好きなだけ食べなよ」って。
                         ――月野一匠「おいら猫の子バーニャード」



    その駅は、もしかしたら本当に名前のとおり一面のお花畑の中に
  あるのかもしれない。私は幼い娘を連れて出かけてみました。
  けれども降り立った駅前は、小路に店々が軒を並べるごく普通の
  街並みでした。
  「お花畑どこにもなかったね、お母さん。うそつきだね、この駅。」
  「でも、会った人はみんな親切だったわ。」
  「そうだね、いい人ばかりだったね。また来てみたいね、この町。」
                             ――月野一匠「秩父お花畑駅」



  高校時代の一年間をカリフォルニアで過ごした娘は、日本へ帰ると
  「もっと広いところで勉強したい」
  と、今度はテキサスの草原の大学で学ぶことになりました。
  「がんばって行っておいで。立派なテキサス・ガールになるんだよ。」
                             ――月野一匠「テキサス・ガール」



  「シエラネバダの山には黄金が眠っているんだ。」
  「だけど、空気にふれるとただの石ころになってしまうという話さ。
  それでも君は行くのかい?」
  「もちろんだとも。ぼくがほしいのは黄金じゃなくて夢なんだ。
  さあ、いっしょに行こう。」
                   
     ――月野一匠「シエラ黄金伝説」



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