なめくじの詩


      なめなめじくじく なめくじら
      どこから湧くのか その姿
      くねる身体
(からだ)はしなやかで
      
しっとり お肌は潤(うるお)って     
      人であったらよかったものを
      何てキモワル ぞっとする


      目立たぬように隠れ
(す)
      音も立てずに這
(は)い進む
      気が小さくて 弱虫で
      地味で のろまで 不器用で
      嫌われ者で 役立たず
      何の因果でなめくじら



     昔 ぼくらは貝だった
     深くて暗い海の底
     貝がら付けて泳いでた
     潮の流れに乗りながら
     海草食べて暮らしてた
     海がふるさと なめくじら



     青いお空にあこがれて
     冒険好きの一族が
     貝がら背負って
(おか)出た
     でんでんむしのかたつむり
     雨の風情に花添える
     愛敬
(あいきょう)よしの人気者


     
(おか)の暮らしが気に入って
     背中の貝がら脱ぎ捨てた
     すると日差しが強すぎて
     裸んぼうのなめくじら
     身体
(からだ)が乾いてたまらない
     昼と夜とを入れ替えた



     身体
(からだ)は半分 水なんだ
     心は全部 夢なんだ
     無垢
(むく)無欲で 正直で
     無口で 愚直で 従順で
     生まれたままの運命を
     一所懸命生きている



     虫一匹も殺せない
     心優しき
ベジタリアン(菜食主義者
     今さら海へは戻れない
     ならばいつかは大空へ
     浮かぶ自分を夢見てる
     かなわぬ夢でもかまわない



     この世の真て何だろう
     この世の善て何だろう
     この世の美って何だろう
     無知で 無学で 無頓着
(むとんちゃく)
     答えはいいんだ 知らなくて
     知りたくないんだ うそなんて



     引き裂かれても血は出ない
     声も涙も出ないけど
     感謝の言葉は知っている
     自然の恵みに生かされて
     無心に今日まで生きてきた
     幸せだったよ ありがとう


     平和を愛して生きてきた
     未来を信じて生きてきた
     水・花・緑ありがとう
     友だち みんなありがとう
     身体
(からだ)は土に
(かえ)るけど
     天に行くんだ 魂
(たましい)




  欲得や争いに明け暮れする人間の何と愚かなことでしょう。
  要領使って楽(らく)しようとする人間の何と醜いことでしょう。
  あなたの生き方は、なめくじの生き方のように純粋ですか?
  なめくじは、人間よりもずっと人格者であり哲学者であるのです。


 物語「ナムの夢」もぜひお読みください。


 Copyright: Isshou Tsukino
 (禁 無断転載)




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